アラフォーでバレエ留学した婆婆バレリーナです。
昔から気になっている職業が、バレエのレッスンの時に伴奏してくれるレッスンピアニストです。バレエとは切っても切れない、バレエを習っていたらどこかで絶対お世話になる方達です。
そんな気になるレッスンピアニストの歴史について書かれた本が『バレエ伴奏者の歴史 19世紀パリ・オペラ座と現代、舞台裏で働く人々』です。
この本はバレエをやっている人、またピアノをやる方でレッスンピアニストに興味がある方には絶対オススメです。
オススメポイント
- パリオペラ座でレッスン伴奏者はどんな人で何をしていたのかがわかる
- 現代のバレエ団が作品を上演するまでの過程、それにピアニストがどのように関わるかがわかる
- 実際に伴奏者として働く人、バレリーナ、オーケストラの演奏者などの生の声が掲載されている
特に後半は実際のプロの現場が垣間見れてすごく面白いです。
学術書のような硬い文章かと思いきやかなり読みやすく、わかりやすい文章で書かれています。
この記事を書いている人
『バレエ伴奏者の歴史 19世紀パリ・オペラ座と現代、舞台裏で働く人々』とは
「バレエ伴奏者の歴史 19世紀パリ・オペラ座と現代、舞台裏で働く人々」は音楽之友社より今年2023年1月31日に発行されました。
著者は「永井玉藻(ながいたまも)」さん。西洋音楽史を専門にされています。
『バレエ伴奏者の歴史 19世紀パリ・オペラ座と現代、舞台裏で働く人々』の構成
この本は大きく分けて2部に分かれており、1部ではパリオペラ座のバレエの伴奏者についての歴史、2部では現代のバレエ団の舞台がどう運営されているのか、どんな人が関わるのかが書かれています。
1部 – バレエ経験者もびっくりの伴奏者の歴史を謎解きの感覚で
バレエ伴奏者と指導者が同じだった
1部では、バレエレッスンの伴奏は最初は弦楽器で行われており、おまけに指導者が同時に伴奏者だったというところから歴史を紐解いていきます。
本書の装丁にも使われているドガなどの絵画にもヒントがたくさんあることがわかります。
いつから、どのように今のようなピアノ伴奏に変化していったのか。
それを謎解きのような語りで解明していきます。当時の楽譜だけではなく、雇用契約書や、どのくらいのお金をもらっていたのか、お給料アップのお願いのためのお手紙など、実際の写真も掲載されており、かなり生々しい。
当たり前ですが本当に当時実在した人間たちのリアルな生活がうかがえます。楽譜には書き込みなどもあり、自分でフランス語が読めたらもっと楽しめると思いました。
シンデレラのあの場面
最初に弦楽器での伴奏について読んだ時に思い浮かんだのがシンデレラのお姉さんたちがダンスのレッスンをする場面です。個人的に面白い場面だなぁ、伴奏はピアノじゃないんだなぁと印象に残っていたのですが、この本を読み進めるとシンデレラについても言及されています。
本物のパリオペラ座のレッスンピアニストの話
1部では、パリオペラ座バレエ団でレッスンピアニストをしている方のインタビューも掲載されています。実際の仕事内容や、どのようにレッスンピアニストになったのかがわかって興味深いです。パリオペラ座では通常レッスンのピアニストと、公演のためのリハーサルのピアニストは別の人が担当するそうです。
バレエ曲には弦楽ソロが多い。演奏者たちの意気込み
弦楽ソロがバレエ曲に多いことについての記載があるのですが言われてみればそうだなと。
オーロラの3幕とか。母がチェロを弾くのですが、白鳥の湖のオデット姫と王子のアダジオの途中で入るチェロのソロがすごく好きだと言っていました。
この本では、実際の演奏者お二人のお話が掲載されています。踊りのための演奏をする醍醐味などが語られています。バレエはこのような演奏者に支えられてできているのだと改めて感じます。
2部 – 新国立劇場バレエ団 公演の舞台裏とバレエピアニストの育成
新国立劇場バレエの公演ができるまで
2部は、新国立劇場バレエ団が一つの作品の公演をするまでの流れを紹介しています。これはすっごく興味深い。本番の公演そのものはプロジェクト全体のほんの一部であり、その前に膨大な時間と労力、たくさんの人が関わって作り上げていっているのだということがわかります。
新作の場合と既存のレパートリーとのタイムラインの違い、配役はどのタイミングでするのか、などなど裏側が見れて楽しいです。
バレエを習っている程度の私たちが見えるのは発表会の時の舞台監督、照明さん、音響さんくらいだと思いますが、もちろんプロの世界はより多くの専門スタッフが関わります。
何年前から準備するのか、どのくらいの時間をかけるのか。
私たちにとっては発表会は特別なものですが、それが仕事の世界ではそれなりに上がったり下がったりがあって、それでもみんなで一つの公演を作り上げていく様子がわかる。
プリンシパルのインタビュー
米沢唯さんのインタビューが載っています。日々のレッスンのこと、伴奏がどういう役割を持つか。スタジオでピアノ伴奏で練習するのと、本番前にオーケストラの演奏で練習する時の違い。日々ピアニストと、オーケストラと仕事をしているプロフェッショナルダンサーならではのお話です。
滝澤志野さん-バレエピアニストの仕事
ウィーン国立歌劇場バレエ団専属ピアニスト、滝澤志野さんのインタビューもあります。現在のポジションに辿り着くまでの経緯、ウィーンでの仕事、今後の夢。
面白いのはバレエのメソッドによっても求められる演奏が異なるという話。ワガノワメソッドと、RADでは違う弾き方が要求されるようです。
バレエピアニストの育成
現在のバレエピアニスト育成についての記載があります。
洗足学園大学ではバレエピアニストになるためのコースがあるそうですが、フランスでさえ専門教育が始まったのはごく最近の事のようです。
バレエピアニストになる条件はバレエを知っていること、という訳ではなさそうです。臨機応変に対応できることや、即興ができること、コミュニケーション能力などが求められる。
本書ではフランスにおけるバレエピアニスト育成についても触れており、入学試験やレッスン、年度末試験の内容も細かく記されていて実際に目指そうと思う方にも参考になります。
バレエピアニストはものすごい専門技術職
バレエの先生はそれぞれのエクササイズについて、初めから音楽に対する注文を出すことはほとんどない。いちに、とかワンツーとか言いながらやってみせるだけで、適切な曲をすぐに提供するのは本当にすごいと思う。おまけに同じ曲を別のエクササイズで使うこともほぼないし、曲のレパートリーも必要です。
もちろん、バレエを知っていればプリエ→タンジュ→ロンドジャンプ・・など流れがわかってくるとは思いますが、毎回アンシェヌマンは異なりますし、先生の癖もある。それにいかに対応するのか。通常のバレエ団やバレエ教室でピアノの伴奏の練習というのはあまり現実的ではないので大変そうですが、洗足ではその辺のフォローもあるようです。
ハンガリーのバレエ学校で目撃したピアノ留学生の話
さて、もふこはハンガリーのバレエ学校に行きました。バレエ学校では各クラスに担当のレッスンピアニストが基本的に固定でついていました。
ハンガリーはバレエ学校よりもリスト音楽院という音楽学校が有名です。日本からも様々な楽器を学びに音楽留学する学生がきていました。もちろんピアノも。
そのピアノの学生さんたちのバイト先として、バレエ学校のレッスンピアニストがあったのです。
日本人のピアノ留学生は時間を守る、という至極当たり前のことができるという理由で人気があるようです。ハンガリー人はその辺ルーズな感じらしい。
ところがピアノの留学生からするとあくまでレッスンの伴奏はバイトです。ただし前述の通り、かなり専門的な技術と瞬発力が要求されるためバレエ経験者ならまだマシですが全くバレエを知らないピアノの留学生が片手間にやるには学ぶことが多すぎるバイトです。
ハンガリーはワガノワメソッドで、先生は音楽も非常に大事な要素であると考えていました。毎日のレッスンと、年に2回試験がありますが、その試験も担当のピアニストと一緒に作り上げていく。なので、片手間にやられても困る訳です。
こちらの記事で伴奏についても触れています。
バイトのピアニストがバレエの先生の要求に答えられず、先生もイラついて揉めてる話もありました。実際バレエの先生からあまり評価の高くなかった日本人ピアニストと話をする機会がありましたが、彼らは彼らの目標があってあくまでもレッスンピアニストはバイトなので、噛み合わないのも仕方ないなぁと感じました。日本人ピアニスト側は非常にドライに割り切っていて、これはあくまでもバイトであるからそんなに時間かけてられないよ、という。
一方でものすごく評判が良くて指名があるくらいすごい日本人留学生ピアニストもいました。私たち指導者コースのレッスンでも伴奏をしてくれることがあり、選曲もすごくいいし上手いなと思いました。
まとめ
「バレエ伴奏者の歴史 19世紀パリ・オペラ座と現代、舞台裏で働く人々」はバレエを習っている人なら読んで損はない。レッスンの伴奏の歴史変遷と、現代のプロフェッショナルな演奏家とダンサーが日々何を考えているのかがわかる貴重な本です。読みやすい文章、謎解き要素もあり飽きません。
新国立劇場バレエについても知ることができます。ついでに価格も2000円ちょっとと良心的。表紙も美しくてお部屋に置いておくだけでもなんだかおしゃれ。
ぜひ手にとって見てください。
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